電気柵とは?
電気柵は鳥獣からの被害を防除する防護柵の一つです。防護柵は主に物理柵と心理柵に分けられ、電気柵は物理的な防護力を持たない心理柵に分類されます。
電気柵は電圧の管理などメンテナンスが大変な面もありますが、現状最も費用対効果の高い防護柵であるといわれております。
信濃町では電気柵の新規購入の補助もしております。
今回はそんな電気柵の特長やメンテナンスの注意点など詳しく解説させていただきます。
なぜ防護柵が必要なのか?
野生鳥獣の被害対策で現在最も重要と呼ばれるのは、
- 被害防除
- 捕獲
- 環境整備
の3点です。
「捕獲」だけでは畑が守られず、エサにありつける動物は数が減りません。
「環境整備」だけでは畑が守られず、数も減らずまた畑に動物が現れます。
しかし、「被害防除」は確実な防護柵の設置ができれば、被害も確実に減らせます。
過度なエサにもありつけないので、過度に個体数が増加することも減ります。
野生鳥獣の対策を行うにあたって3つとも重要ですがその中でも最も重要なのが「被害防除」であるともいえます。
もし、被害に遭われている・懸念があるのであれば、まずは防護柵の設置を考えていただきたいと思います。

電気柵の防除原理
電気柵は物理的な防護力を持たない、心理柵です。
電気柵では「痛み」を与えることで「この柵は近づかない方がいい」と動物に学習させることで、侵入を防止します。
ここからは電気柵の仕組みを危険性も含めて解説いたします。
電気柵の仕組み
電気柵は主に以下の6パーツで構成されます。
- 電源(パワーボックス)…電気を流す装置
- バッテリー…電気をためておく装置
- アース…動物に電気を流すための器具
- 電線…動物に電気を流すための線
- 支柱…電線を張るための器具
- クリップ…電線を支柱に固定するための器具。碍子(がいし)ともゆう
アースと聞くと家電などの感電を防止するための装置を連想しますが、電気柵においてアースは感電させるために必要な器具になります。
電気柵は下の図のように、バッテリーに貯まった電気を電源で危険にならないくらいに適切に電線に流します。
その電線に動物が触れると、動物の体→地面→アース を通して-側に電気が流れることで回路が完成し、痛みを与えることができます。

このように仕組みは意外と簡単ですが、気を付けなければいけないポイントが複数あります。
電気柵で重要なポイント①:電圧5000V以上を維持
電気柵を設置するうえで最も重要かつ最も面倒な点が電圧の管理です。
電圧の管理は電気柵の防除効果に大きく影響します。
電圧が5000Vを下回ると、動物が耐えられる痛みになり侵入される確率があがるためです。
最初に述べたように電気柵は「痛い」ことを学習させなければなりません。
逆に言えば、「痛くない」ことを学習されればただの紐と同じです。
電圧管理のコツ
電圧管理には必ず専用の電圧チェッカー(テスター)を用いましょう。
何Vかまで表示される物の方がおススメです。
「電気柵を設置した際は7000Vくらい出ていたのに、気づいたら下がってる」
といった現象は大抵雑草が原因です。
雑草が電気柵に触れるとそこから漏電し、電圧が落ちてしまいます。
また、農機具を立てかける、金属製支柱からの漏電、なども注意が必要です。

電気柵は設置して終わりではなく、電圧の管理が付きまとうことはご承知おきください。
ただ、あまり神経質にならなくても大丈夫です。草刈りは5000Vを下回りそうになった時で大丈夫です。
雑草処理を楽にする方法として防草シートを使用することも可能です。
ただし、防草シートは電気を通さないため、下の図のように電気柵の外側は20cm以内程度になるようにしましょう。

電気柵で重要なポイント②:侵入相手に合わせた柵の設置
電気柵を購入する前に侵入している相手を知る必要があります。
信濃町で被害が多いのは、
- クマ…とうもろこし、養蜂(一晩で数十本を食べる)
- イノシシ…水稲、そば、芋類、あぜ(広く掘り返す)
- シカ…全般(新芽を食べる)
- サル…全般(群れで昼間に被害を出す)
- ハクビシン…果樹、トウモロコシ、豆類、ナス科類
- タヌキ、キツネ…全般
- カラス…全般(電気柵ではなく防鳥ネット等が対策になるため要確認)
被害があった場合は足跡などの痕跡を必ず確認し、相手を確かめましょう。
各対象に合わせた電気柵の設置のコツなどを解説します。
クマ・イノシシ:3~5段張り推奨
クマの場合は手のひらか鼻、イノシシの場合は鼻に電線があたることが重要になります。
くぐって背中に当たった場合効果がありません。
どちらも単体で来る場合もあれば、親子で来る場合もあります。
高さは、「くぐれない」、「飛び越えられない」、「鼻に当たる」高さという視点が重要になります。
推奨の高さ間隔は、
- 3段:20cm - 20cm - 20cm(計60cm)
- 4段:15cm - 15cm - 20 cm - 20cm(計70cm)
- 5段:10cm - 15cm - 20cm - 20cm - 20cm(計85cm)

なるべく段数を増やし、地面に近い方が地面を掘って侵入されるリスクが下がります。
また、クマの場合は下の写真のように支柱を1本追加したり、突出しクリップと呼ばれるパーツを用いて、最下段の外側にもう一段張ること(トリップライン)でより掘って侵入されるリスクが下がります。

また、クマは朝夕も活動しますので、通電は「常時」に設定してください。

シカ:4~7段張推奨
シカの場合も「鼻」に電線を当てることが重要です。
シカは跳躍力が高く、土を掘る能力が低いので、「くぐる」より「飛び越える」を警戒する必要があります。
シカは90cmの助走で最大1.8mほどの障害物を乗り越えることができるともされるため、高さが重要になります。
推奨の高さは地面から、
- 4段:45cm - 30cm - 30 cm - 45cm(計140cm)
- 5段:30cm - 30cm - 30cm - 30cm - 40cm(計160cm)
----------6段以降はイノシシと併用を想定----------
- 6段:20cm - 20cm - 20cm - 30cm - 30cm - 30cm(計150cm)
- 7段:15cm - 15cm - 20cm - 20cm - 30cm - 30cm - 30cm(計160cm)

サル:6~8段 または 複合柵 推奨
サルの場合は「手」に触れさせることが重要になります。
サルは体は小さいですが知能が高く、跳躍と木登りが得意なため支柱を使った侵入の警戒と、上段に工夫が必要です。
サルは知能が高いため、支柱を触れば感電しないことをすぐに理解してしまいます。
そのため、支柱に巻き付けるように縦線を入れる(支柱が絶縁のものでないと漏電します)ことが重要です。
推奨の高さは、
- 6段:15cm - 20cm - 20cm - 30cm - 30cm - 30cm(計145cm)
- 7段:15cm - 15cm - 20cm - 20cm - 30cm - 30cm - 30cm(計160cm)
- 8段:15cm - 15cm - 15cm - 20cm - 20cm - 30cm - 30cm - 30cm(計175cm)

また、体が小さく跳躍できるため上段に飛んで張り付くと、アースがないため電気が流れません。
上段には交互にマイナス(-)と繋がる線を入れてください。こうすることで、上段でも感電します。
ただし、プラス(+)線と接触するとショートする危険があるためご注意ください。
また、サルの場合は複合柵なども有効です。
下段側をワイヤーメッシュやトタンの物理柵として、物理柵をマイナス(-)側に繋いでおきます。
上段側に電気柵を3段程度張ることで完成するため、電線の量が減り、コストと労力を削減することが可能です。
注意点は、物理柵と電気柵の間から侵入されることがあるため、物理柵と電気柵の隙間は可能な限り縮めて下さい(ショートに注意)。

その他 ネット+電気 複合柵推奨
タヌキ、キツネ、アナグマ、ハクビシンなどの中型獣は体が小さい分、下からの侵入が得意です。
穴を掘るのが得意な場合も多いので、地面付近の侵入対策が重要です。
5~10cm程度隙間があれば侵入ができてしまいます。
ですが、電気柵を低く張れば張るほど草刈りの頻度が多くなってしまい、大変になってしまいます。
また、地面の凹凸にも気を張る必要が出てきてしまうため、かなり手間がかかります。
そこで推奨されるのはネットと電気柵を組み合わせた複合柵です。
図のようにアニマルネット50cm(キツネの場合は100cm推奨)などを使用し、ネットを張ります。
この時ネットの裾を10~15cmほど地面に埋めるようにしてください。
ネットの外側に電気柵を2~3段張ることで、動物は探索本能的にネットの前にある電気柵を調べようとして感電します。
突出しクリップを使用すると外側に支柱を立てる必要がなくなるのでお勧めです。

また、ハクビシンに特化した電気柵として埼玉県農業技術研究センターの開発した「楽落くん」も有効です。
「楽落くん」を設置する際も金網のネットが掘られたり、ずらされたりしないよう土を盛ることが重要になります。
「楽落くん」は電線が1本で済み、電線が高い位置に付けられるため、草刈りなどの労力が大きく削減されます。

電気柵で重要なポイント③:アースの深さ、地面の質、地形
電気柵でしっかりと動物に感電させるためにはアースが重要です。
アースは説明書通りの本数をしっかりと奥まで刺してください。
動物から地面に流れた電気は地中の水分を介してアースまで流れます。
アースがしっかりと深く刺さっていないと、電気が上手く流れないことがあります。
また、電柵の外側がすぐ道(アスファルト)になっていると動物が感電しません。
アスファルトが絶縁であるためです。
電気柵は電気柵の外側50cm程度まで畑と同様の地面の質である必要があります。

加えて電気柵を設置する際、地形にもご注意ください。
地形の凹凸が大きいと、凹んだ地面と電柵の間が大きくなり、そこから侵入される確率が上がります。
用水路が途中にあるなど、どうしても凹みのある場所を通る場合は電線の途中に重りを付けるなどが有効です。
また、畑のすぐ上が斜面になっている場合も要注意です。
たとえ5段の電柵を張っていたとしてもすぐ上が斜面になっていると上から飛び越えて侵入される場合があります。
サルの場合は木にも要注意です。木の上から飛び込んで侵入される場合があります。

電気柵の危険性
電気柵を設置する場合は確実に危険表示板を設置して下さい。
看板を設置していないと法令違反となります。
電気柵はパワーボックスによって電気を感電しても痛くなるだけになるように調整しています。
具体的には一瞬だけ電気が流れるようにパルス波に変換しています。
そのため電気柵は触れて痛いことはあっても、怪我や死に至ることはありません。

電気柵の電線にバッテリーやコンセントから直接給電することは絶対にやめてください。
感電死の恐れがあります。
前述のように、パワーボックスを通すことで感電しても痛くなるだけになっていますが、直接バッテリーやコンセントから給電すると調整がされていないため感電死の恐れがあります(実例があります)。
コンセントを電源とするタイプの電気柵(AC電源式)も存在しますが、法令でPSEマークのついたパワーボックスの使用が義務付けられていますのでご注意ください。

電気柵の設置について
以上までの注意点や侵入される動物の種類などから、ご自分の圃場にあった電気柵をお選びください。
電気柵を購入したら、役場 農林畜産係(026-255-3113)にご連絡いただき、電気柵の補助金が活用できるかもお確かめください。
※町内在住者・事業者、町内圃場、電気柵の本体(パワーボックス)を含むなどの制限もございますので補助金活用前に一度ご確認ください
※年度あたり1回まで
※補助上限5万円、税抜き価格の2/3まで
※1年度あたり70人程度のため、補助できる人数に限りがあります(令和7年度は11月で終了)
電気柵の設置手順
- 支柱にクリップを取り付ける
・クリップの高さはおおよそあわせておく
- 支柱を設置する
・支柱の深さは、風で倒れない程度(軽く叩いて傾かない程度)
・角の支柱は若干外側に倒すことで、電線をピンと張ったときにまっすぐになる
・防草シートや、マルチ設置する場合は支柱設置前に実施
- 電線を張る
・最初は電源に繋ぐ必要はない
・下から順に張る
・張り終わったら、クリップの高さを調整する
・入口の設置は外周を張り終えた後でOK
- 縦線をつなぐ
・電源の近くが望ましい
・最下段から最上段まで
・断線の可能性があるので2か所程度が望ましい
- 電源をつなぐ
・バッテリーからパワーボックス、パワーボックスから電線 の順番を必ず守る
- 電源を入れる
・稼働時間の設定は基本的に「常時ON」推奨
- 電圧をチェックする
・電圧は大抵7000Vくらいが正常
・電圧が5000Vを下回る場合、草や農機具が当たっていないか、支柱から漏電していないか確認する
電線の留め方
信濃町の場合雪が多いため、毎冬前に片付けが必要になります。
電線を固く結びすぎると片付けが面倒になったり、途中で切ったりして目減りしたりします。
そこで下図のように留めることで電線の片付けが楽になります。
※支柱が絶縁の樹脂製のものに限ります。
電線の始点を留める時は、
- 余分に30~50cmほど長くクリップに通します。
- クリップの上を一周させます。
- ひと結びします(半結びにすること。本結び・固結びにしない)
- 余った電線は根元をキツく3周、中間は緩く、最後の2cmをキツく巻いて完成です。
終点も同様です。
電線は中に金属線が入っているため、これで十分留めることができます。
こうすることで片付けの際に巻いたところを緩めるだけで解くことができ、電線同士の接する部分も多くなるので断線リスクも低下します。
電線同士を留める必要がある場合も4の手順を行うことで、留める手間は多少増えますが片付けの無駄はかなり省略できます。


よくあるご質問
物理柵ではダメなのか?
物理柵(ワイヤーメッシュ、金網、ネット)等でも構いません。
カラス等の鳥類の場合は物理柵がもっとも有効です。
ただし、物理柵のみではクマやハクビシン、サルなどの木登りが得意な種に対応できません。
もしすでに物理柵を導入していて、それらに侵入される場合は物理柵をマイナス(-)に繋ぎ、物理柵の上に1~3段の電柵を張る複合柵にすることをお勧めします。
また、信濃町の場合ですと多雪のため、物理柵でも雪で損壊する可能性があります。
また木の根や蔓が伸びるタイプの植物で損壊させられる場合もありますので、管理は必要です。
豪雪地帯の信濃町ではそういった損壊に耐えられる仕様の物理柵を設置しようとすると費用が非常に大きくなってしまうため、電気柵をお勧めしております。
忌避材でいいのでは?
忌避材(きひざい)とは特定の強い臭いを出す自然物(乾燥ヒトデ、オオカミの尿など)または化学薬品(過炭酸ソーダなど)のことで様々な製品があります。
ですが、効果はどれも一過性といっていいと考えます。
動物は習性として普段嗅ぎなれない臭いがあれば警戒して避けます。
ですが、それも常設してあればいつかは慣れます。
動物は基本的に「安全」と「エサの確保」の2点を守り行動しますが、そこにエサがあり、飢えている場合は危険を冒してでも「エサの確保」に動く場合があります。
臭いしかないものと学習されてしまえば忌避材は効果をなくします。
また、忌避材も雨や自然の分解力でおおよそ1週間程度で臭いが弱くなるため、管理が必須になります。
効果的な使用方法としては、収穫の直前のみ等、一時的な使用がお勧めです。
センサーで音が鳴るタイプの追い払いグッズは?
こちらも忌避材と同様で動物がいずれ慣れてしまう対策の一つです。
音が鳴るだけと学習されてしまえば、畑に侵入されます。
効果的な使用方法としましては、畑に近い森の近くで可能であればクマやサルが過去に使用した獣道等に向けて設置し、日中の作業中にクマやサルの接近に気づけるようにする等の使用方法がお勧めです。
自宅への獣の侵入対策や防犯用としての設置であればさらに効果的だと考えます。
