ツキノワグマとは?
ツキノワグマとは、日本や東南アジアに生息する中型のクマで、体長は最大1.5m、体重は最大100kg前後の大型犬より少し大きいサイズのクマです。
食性は雑食ですが、ヒグマほど肉食性は強くなく、比較的甘い液果類(桑、柿など)や堅果類(どんぐり、くるみなど)を好みます。
嗅覚と瞬発力、柔軟性が高く、強力な爪と牙が最大の武器です。
また学習能力が高く、一度楽に取れるエサ場を見つけるとそのエサの種類や旬を覚え、毎年のように出没するようになります。
ツキノワグマは古くから信濃町に生息しており、信濃町の生物多様性を支える一部も担っています。
信濃町に住む町民の方、観光で訪れる方などに向けてツキノワグマ対策をご紹介いたします。

ツキノワグマは”おそろしい”?
信濃町役場のAIチャットボットでも非常に多くいただいたのが”おそろしい”、”こわい”といったご質問でした。
ツキノワグマは一度襲われれば命を落としかねない強力な生き物で間違いありません。
ですが、「人慣れをさせない」・「寄せ付けない」・「(有害個体の)駆除」の3点を行うことでツキノワグマとも共生、共存は可能であると考えられています。
基本的にツキノワグマは臆病な性格で山から里に下りることは稀とされています。
・なぜ、里に降りるようになってしまったのか
・なぜ、人が襲われる事態が頻発しているのか
について現在主とされる学説や統計、猟友会の方からの知見から考えてみたいと思います。
なぜ、里に降りるようになってしまったのか
里に下りる原因として最も広く言われるものは、「山にエサが不足している」「個体数が増えている」の2点だと思われます。
まず、「山にエサが不足している」については主に堅果類(ドングリ、ぶな、くるみ)などはその年の気候・実りの周期が原因で凶作・豊作に波があります。
これには長期にわたり変動があります。近年ですと2006年、2012年、2020年、2023年が凶作によりクマが大量出没しました。
(令和7年度の長野県の堅果類の豊凶調査結果はこちら)
次に「個体数が増えている」というのも間違いないと思われます。農林水産省の発表では平成15年から平成30年の間にツキノワグマの生息分布が全国で約140%増加したとされています。
ただし、これについてはそもそもの個体数が少なかった背景があります。明治時代初頭に村田銃が開発されましたがその一部は民間へ払い下げとなりました。その頃廃藩置県の影響により、各藩で定められていた狩猟の制度などが撤廃され、規制が緩和されていたことと重なり日本の野生鳥獣は大きく数を減らしました。
その後、世界大戦、人口急増、高度経済成長を経た日本は野生鳥獣の数が少ないなかで人間の生活域を広げていきました。その間、狩猟などの制度は規制が強まり、減少した個体数を回復させるよう働きかけていました。鳥獣保護法(現在の鳥獣保護管理法)などはこの間に誕生しています。
つまり、直近100年ほどは明治初期以降の様々な出来事に影響され、野生鳥獣の数が少ない時代だったのです。
しかし、近年は野生鳥獣は数を取り戻し、逆に人間は生活域は大きく縮小せぬまま少子高齢化社会を迎えてしまったため距離が近いままで少ない人間の数で野生鳥獣と相対する状態になってしまっているわけです。
さらに、鹿やイノシシもこの間に生息数と生息域を拡大し、これらも堅果類を食べることからエサが余計に不足しています。
加えて、近代化に伴い里山に入る人口が減ったことも要因の一つと考えられています。石油や天然ガスインフラが普及するまでは自然のものが家庭の熱源として利用されていたため、人間が頻繁に里山に入り手入れをすることで自然と家の周りの雑草や雑木が整えられ、そこに動物が気づけるヒトの気配が生じました。
しかし、それがなくなったことや耕作放棄地が増えたことが原因で里山と人間の生活域の境界は薄れ、さらに近い距離まで動物は近づけるようになりました。
また、放置果樹が増えたことで、野生鳥獣が安心して食べられるエサが人里近くに多くあることも要因の一つとなっています。


クマが里に下りるほかの理由(生態による)
その他にもクマの生態による理由でクマは人里の降りることがあります。
①若いオスクマの分散:若いオスのクマは血が濃くならないよう、母親から離れる際に大きく移動することがあります。十~数十km単位で不慣れな土地を移動するため、人里の近くを通ってしまうことがあります。2025年10月10~11日深夜の長野市善光寺付近で繰り返し目撃されたクマもこれが原因と県クマ対策員より推測されています。この場合はあくまで移動の途中であるため再び出没することは少ないです。
②親子クマの逃避:オスのクマは子殺しを行ってでもメスと交尾しようとすることがあるといわれており、親子のクマはオスクマから逃避するために人里の近くにわざと移動することがあると言われています。
なぜ、人が襲われる事態が頻発しているのか
以上の人里への出没増加要因により、人とクマの距離が近づき、遭遇する確率が急増したことが大きな原因と思われます。
比較的近年の日本では人がクマに襲われる事例が少なかったため、人間がクマに対する意識を欠いていたことも要因といえるでしょう。
秋田県庁の発表では人身被害のうち8割が「出会い頭」の遭遇によるクマの自衛のための死傷とされています。
2025年10月には、信濃町と新潟県の境を流れる関川沿い(新潟側)でランニング中の男性が親子クマと「出会い頭」で遭遇し、襲われる事例がありました。ランニングは人間が無防備の状態で速く移動するため、どうしても「出会い頭」での遭遇により襲われけがをするリスクが高まります。ランニングをされる際はクマの目撃情報がないコースを選択する、スマホで音楽を流す、クマスプレーを携帯するなどの対策を講じた上で実施をお願いいたします。
「出会い頭」の遭遇は特に早朝の発生が多く、これはクマが自分の生息域まで戻る前に遭遇するためです。
基本的に夜に行動することが多いクマが朝方まで人の生活域近くにいる場合はエサに夢中になっている場合もあり、人の接近に直前まで気づかないこともあります。
肉食性や凶暴性については、現在解明されていないことも多くあり明確ではありませんが、「エサ不足により肉食化が進んだ」「人間(観光客)などが餌付けをしたり、危害を加えられないと学習し、人間を危険なものではないと学習した」などの説があります。
しかし、本来ツキノワグマは臆病で草食寄りの食性をもつ動物です。
信濃町のクマは?
信濃町での2025年の出没状況などは令和7年度から導入された「けものおと2」アプリからご覧いただくのが最も詳細に状況を確認することができます。
(けものおと2の詳細はこちらから)

「けものおと2」の実際の画面からも見て取れるように信濃町ではほぼ全域で目撃情報が寄せられております。
主な出没場所は飯縄山・黒姫山山麓付近に集中しており、近くに用水や沢、川があることが多く、水辺に沿って移動していることがうかがえます。
担当職員のヒアリングではクマがこちらに向かってきたという事例はほぼなく、人慣れは進んでいないと思われます。
信濃町での目撃で最も多いのは「車内からクマが道路を横断するところを見た」という情報です。およそ9割はこの情報で、車内にいたため出会った方で危険な目にあったというう方はほとんどいません。ただし、2、3件ほど車と接触した、または接触しかけたといった情報もありました。車での走行中であっても注意していただきますようお願いいたします。
また、信濃町ではクマによる農業被害も発生しています。特に名産である「トウモロコシ」は糖度も高く、クマの大好物となっているため被害が最も多い作物です。信濃町ではトウモロコシの被害があった場合は猟友会と連携し、捕獲に努めています。しかし、トウモロコシへの依存度は非常に高く、知能の高いクマは畑の近くに捕獲檻を設置しても捕獲できないこともしばしばあります。
そのため、トウモロコシを栽培される方におかれましては、「寄せ付けない」対策として電気柵の設置をお願い致します。町では電気柵の新規購入に係る補助を毎年予算の限り補助しておりますのでそちらも併せてご確認下さい(令和7年度は予算上限により補助終了)。
トウモロコシ被害の駆除にあたっては、檻や人員の制限があるため電気柵を設置している圃場を優先的に駆除を行っております。これは電気柵がない圃場ではいくら駆除しても次のクマがよってきてしまうため駆除の意味が薄れてしまうためです。ご理解のほどよろしくお願い致します。
被害としては稀ですが、庭に置いていた木の実や果実をクマに食い荒らされたといった事例があります。
こちらは大変危険です。
クマは楽に好物が食べられる場所を学習してしまうため、一度クマにその場所を知られてしまうと何度も繰り返し庭に出没します。
決して庭に果物や木の実(どんぐり、ぶなの実、くるみ、栗など)を放置せず、屋内で保管するようにお願い致します。

また、廃棄野菜や廃棄果樹も放置せずにしっかりと処分していただきますようお願い致します(生ゴミも同様)。
人間の食べ物や楽な手段で美味しいものを食べられると学習させると人慣れを加速させる要因となります。
クマにエサを与えることもおやめください。
現在、町民や観光の皆様の「人慣れさせない」・「寄せ付けない」・「(有害個体の)駆除」に対するご協力のおかげで信濃町での被害は最小限に抑えられていると考えています。今後もご協力のほどよろしくお願い致します。

クマと出会わないために・出会った時の対処、備えについて
クマと出会う状況として①山歩きや散歩中などの外出中、②住宅や畑などの生活圏での遭遇の2パターンが考えられますので、それぞれでの対策をご紹介します。
①山歩きや散歩中などの外出中
登山や山中の散策、山麓での散歩では町内のどこでも遭遇の可能性があります。
少しでも外出中の遭遇率を下げるためには、まずクマに人間がいることを知らせることが重要です。
そこで最も有効なのは「音を出すこと」と言われています。
特にクマは高音に敏感なため、高音が出せると有効です。以下の「音」を出すものを携行することをお勧めいたします。
・クマ鈴
・ラジオ
・拍手
・枝やストックで木をたたく
・爆竹、ロケット花火(火災に注意)
・ベアホーン
②住宅や畑などの生活圏での遭遇
住宅や畑などの生活圏においても①と同様音を出すものが効果的です。
・畑作業中はラジオを流す
・センサータイプのアラーム装置を設置する
・朝方夕方は花火をならす(火災やご近所トラブルに注意)
音の対策に加え、普段の生活域は「環境整備」も重要になります。
クマを含めた野生鳥獣は基本的に人に近づかれたくない・人に見られたくないと考えながら移動します。
そのため藪の濃い場所や、暗い森は野生鳥獣にとって安心できる移動経路となります。そこで必要な環境整備は、
・雑草の草刈り(膝丈を超えたら刈る)
・森を明るくする・見通せるようにする(低木の伐採、杉の間伐など)
といった対策になります。さらに前述のとおり、
・寄せ付けない
→放置果樹は伐採する
→生ゴミ、廃棄野菜、廃棄果樹の処理
→くるみ、どんぐり、栗等もなるべく処理する
→電柵を設置する(信濃町では毎年70件程の電気柵新規購入費用を補助しています、令和7年度は予算上限により終了)
などが重要です。
出会ったときの対処・備えについて
出会ったときの対処として最も安全とされるのは
○目を離さずゆっくりと後ずさる
だとされています。
△声を出して手を挙げ体を大きく見せる
も有効とされますが、出会い頭など近距離の遭遇の場合、逆にクマを興奮させてしまい襲われる可能性があります。
さらに襲われるリスクをあげる対処として、
×すぐさま振り返り逃げ去る(背中を向けるのは危険)
×死んだふりをする(興味本位などで逆に近づいてくる)
などがあります。実際に遭遇するとすぐにでも逃げ出したくなる恐怖が襲ってきますが、冷静な対処が最も有効です。
出会う時のための備え
まずはイメージすることが重要です。ここは大丈夫だろうという固定観念は捨ててどこからでも出てきたら冷静な対処をするイメージを行いましょう。
次にクマスプレーなどの購入です。
およそ1万円~2万円ほどする高価なものですが、命には代えられません。
近頃様々な製品がふえていますが、注意すべき点は
・噴射時間
・噴射距離
・使用期間
・携帯性(携帯用ケースがついているかなど)
です。
噴射時間は長ければ長いほど安心です。希なケースですが、20m以上先からクマが突進してくる場合があります。その際は今までのどの対処も無効になる場合が多く、クマスプレーが最も有効です。そんなときはすぐにでもスプレーを噴射したくなります。しかし、大抵のクマスプレーの噴射時間は4~9秒です。距離が離れている段階から使用して近づいてきた段階にはもう使い切っている状態では意味がありません。そのため噴射時間は長いほど安心です。
噴射距離も同様で遠い段階から使える、当てやすいなどの理由から噴射距離も長いほど安心です。
製品ごとに使用期間も存在し、安くセールになっているものは実は使用期間が迫っていることもあるので注意が必要です。
携帯性は見逃しがちですが、いざという時にリュックの中にしまっていたらリュックの中から出す前に襲われてしまいます。携帯用ケースなどが付属のものの方がいざというときに実際使用することができます。
クマスプレーにおいてもイメージがとても重要です。いざクマが目の前20m先から時速40kmで迫ってきた時をイメージし、すぐに噴射しては先にスプレーがなくなってしまうため、ご自分のスプレーの噴射時間と噴射距離から噴射距離+3~5mくらいまで引きつけてから噴射するイメージを普段から行うことが大切です。
襲われてしまったら
もし、以上の撃退、回避方法がすべて無効で襲われてしまった場合は、
・伏せた状態で首・頭を守る
姿勢をとってください。おそわれて死亡してしまった場合のほとんどが、首から上を攻撃されたものによります。
たとえ、命に別状がなかったとしても顔面への攻撃は、顔面麻痺や失明などのリスクがあります。
首から上を必ず守る姿勢をとってください。
よくあるご質問
Q.クマの目撃情報を教えてほしい
クマ等目撃情報は「けものおと2」から過去のものまで、マップ形式や一覧のリスト形式でご確認いただけます。
「けものおと2」について詳しくはこちらから
また、クマが日中に出没した場合は防災無線による全町放送を行っております。
加えて防災メールからの配信も行っておりますので、そちらも併せてご確認ください。
防災メールについて詳しくはこちらから
Q.クマは全て駆除してほしい
不可能です。
物理的に全てのクマを駆除することがまず不可能ですが、クマは鳥獣保護管理法において指定管理鳥獣に指定されており、有害個体の排除のみが許可されています(狩猟期間を除く)。
有害個体が出没した際に県へ許可申請を経てから駆除が可能となるため、過度な駆除は法令違反となります。
また、古来から生息するクマには文化的な側面も多くあります。
さらに生物多様性の観点から森林生態系の代表であるクマが絶滅すると他の野生鳥獣が異常に増加したり、ズーノーシス(人獣共通感染症)の蔓延リスクがあがるなど様々な悪影響が及ぼされることが危惧されます。
クマがいる森は豊かな生態系の象徴でもあるのです。
クマの全ての駆除は以上の理由から不可能ですが、危険な個体の排除は妨げられていませんので危険な個体の情報がありましたら信濃町役場までご連絡ください。
Q.クマを見かけたらどうしたらいいの?
クマを見かけた場合は
信濃町役場 産業観光課 農林畜産係
026-255-3113
までご連絡ください。110番通報は緊急事態の場合のみご利用ください(人が襲われている、家に侵入した等)。
Q.町はクマに対して何をしているのですか?
信濃町では
・クマの出没の際の防災無線放送、防災メール配信、けものおと配信等の情報配信
・市街地出没の際のパトロール
・クマ被害の現地確認
・クマの捕獲許可申請
・猟友会への駆除依頼
・誘因物除去
・電気柵の新規購入補助
などの対策を行っております。
Q.クマの足跡or糞のようなものを見つけた
下記にクマの痕跡の写真を掲載していますので比較のうえ、ご確認ください。

クマの足跡(後ろ足、成人男性の足のサイズくらい)

クマの足跡(前足と後ろ足をほぼ同じ場所につけて歩いているためとても大きく見える)

クマの足跡(前足、秋田県庁自然保護課)

クマの糞(草を多く食べたもの、秋田県庁自然保護課)

クマの糞(桑の実を多く食べたもの、秋田県庁自然保護課)

クマの糞(サクラの実を多く食べたもの、秋田県庁自然保護課)

クマの糞(栗の実を多く食べたもの、秋田県庁自然保護課)

クマの糞(柿の実を多く食べたもの、秋田県庁自然保護課)
よく間違われる足跡:イノシシ(サイズが大きいため間違われやすい)

イノシシの足跡(大きな1対の蹄(主蹄)と後ろの小さな蹄1対(副蹄)があり、絵で描いたモモのような足跡)

時間が経ったイノシシの足跡(蹄の形が見づらいが、よく見ると角が尖っていて、副蹄の形跡がある。先ほどの画像とは前後逆)
